「源氏物語 葵」(紫式部)

本帖の最大の山場は「源氏と若紫の結婚」

「源氏物語 葵」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

「車争い」の一件以来、
気位の高い六条御息所の心は
深く傷つき、乱れ、
魂が遊離するようになる。
やがて葵の上は
物の怪に取りつかれ、
苦悶し始める。
無事に源氏の子を出産した
葵の上だったが、
御息所の生き霊により、
落命する…。

源氏物語第9帖「葵」。
本帖の最大の山場は
「源氏と若紫の結婚」であると
私は考えるのですが、
本文中ではこの部分は
実はほとんど目立ちません。
行為に及んだことは一切書かれず、
翌朝以降の出来事から
推察できるようにされてあるだけです。
一読して目立つのは
「六条御息所と葵の上との車争い事件」と
「生き霊に苦しむ葵の上の出産」、
つまり葵の上と六条御息所の対立
(というより御息所の嫉妬)なのですが、
これらはすべて
「源氏と若紫の結婚」という
本帖の頂点に向けた
仕掛けに過ぎないのです。

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葵の上は源氏の正妻です。
源氏より三歳ほど年上であり、
権力者の娘であることから気位が高く、
源氏に対しても素っ気ない態度を
繰り返すため、源氏の心は
なかなか彼女に向きません。
しかし正妻は正妻です。
葵の上の存在するかぎり、
源氏が若紫に入り浸ることは
難しかったでしょう。
一方、六条御息所も
才色兼備の女性であり、
特に「才」の方に秀でていたため、
葵の上に負けず劣らず
気位が高かったのです。

紫式部は、源氏がこの二人に対して
強い恋慕の情を抱いている場面を
全く設定していません。
葵の上とは「桐壺」の後半で
結婚した事実が書かれてあるだけで、
以後の帖にそうした部分は
見当たりません。
六条御息所についても
「夕顔」の帖が初登場ですが、
この段階ですでに源氏の気持ちが
冷めてしまっていることが
書かれてあるのみなのです。
紫式部は、はじめからこの二人を、
源氏の恋人たちを際立たせる
引き立て役に選んでいたのかも
知れません。

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葵の上を六条御息所が呪い殺し、
御息所もまたそれを気に病み
次の「賢木」の帖では源氏に別れを告げ、
源氏物語の舞台から退いていきます。
代わって源氏の心を独り占めするのが
若紫なのです。

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二人が結ばれるといっても、
源氏22歳に対し、若紫はまだ14歳。
大学4年生が中学2年生と
同棲しているようなもので、
現代に引き寄せて捉えるとはなはだ
不謹慎な組み合わせとなります。
しかし絶対的な存在である源氏の
最愛の女性は、他の男性を知らずに
純粋なまま育った女性、
しかも長い期間に渡って
添い遂げられる存在でなければ
ならなかったのでしょう。
このあたりにも
紫式部の周到さが現れています。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.3.21)

István MihályによるPixabayからの画像

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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